岡田仁志 世界選手権従軍レポート その2 

2010/08/15 | <<一覧に戻る

ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志


現地時間 2010年8月14日(土)24時40分

開会式を盛り上げたサンバ

開会式を盛り上げたサンバ

この連続レポートのタイトルを「Come Rain or Come Shine」にしておけばよかった……と思うような1日。クワクワとやかましいカモメの鳴き声で目覚めたときは雨だったが、午後2時からの開会式までには止み、各国選手団の入場時には明るい陽光がピッチに差し込んだ。賑やかなサンバ隊の演奏に始まった開会式は、満場のあたたかい拍手や声援に包まれながら、滞りなく終了。日本選手団も、楽しそうに客席に手を振っておりました。

入場する日本選手団

入場する日本選手団

ところがセレモニーが終わるやいなや灰色の雲が空を覆い、地元イングランドとスペインによる開幕戦は冷たい雨中戦となった。日なたと日陰の温度差が激しく、晴れると汗ばむほど暑いが、雨ともなるとカッパを着ても寒い。選手たちは濡れたピッチでボールコントロールに苦しんでいたが、われわれ取材陣にとっても過酷な大会初日であった。

グループAで日本のライバルとなる両チームの対戦は、現在の欧州のレベルを知るのにうってつけの一戦でもある。私の印象では、4年前の世界選手権でも、2年前の北京パラリンピックでも、スペインとイングランドには大きな実力差があった。スペインは北京でアルゼンチンと3位決定戦を行い、惜しくもPK戦でメダルを逃している。一方のイングランドは、韓国にPK戦で勝って5位。順位こそ4位と5位だが、試合内容はスペインのほうがはるかに上だったのだ。ところが昨年の欧州選手権では、イングランドが2位、スペインが3位。試合を見ることができないので、この結果は私にとって大きな謎だった。イングランドが急成長したのか、それとも、スペインが弱くなったのか。前者なら、欧州全体のレベルが底上げされたと見ることができるだろう。

しかし、どうやらそうではなかったようだ。イングランドは、北京パラ当時の印象と変わらなかった。動きが直線的で、ブラジルや中国のような曲線を描く滑らかなドリブルのできる選手はいない。それはつまり、キープ力が低いということだ。そしてスペインのほうは、持ち前のキープ力が落ちていた。長くチームを支えていたエースのホセがいないせいもあるだろう。もうひとりの得点源である10番のヴィセンテ・アギラ(通称チャッピー)もボールが足につかない場面が目立ち、以前ならドリブルで抜きにかかった局面でも安易にパスを出す。そんなわけで、どちらもボールをしっかりキープできないため、ルーズボールの多い、内容的にも冷え込んだゲームとなった。この試合を見るかぎり、すでにアジアは欧州のレベルを抜いているのではないかと感じる。正直に言うが、日本選手権のアヴァンツァーレ×たまハッサーズ戦のほうが5倍くらい面白いです。

イングランドのストライカー、デヴィッド・クラーク

イングランドのストライカー、デヴィッド・クラーク

それでも後半は、また突如として戻った明るい陽光のせいもあるのか、前半よりは激しい攻防が見られた。とはいえ シュートがGKを脅かすシーンは少なく、あまりゴールの予感はしない。スペインは第2PKを二度得たが、いずれも7番アントニオ・マルティンが外した。スコアレスドロー濃厚。だが、スペインベンチは諦めていなかった。残り50秒でタイムアウトを取る。そこでどんな指示が出たのかは、わからない。試合が再開すると、それまでおもに最後方で守備に専念していた8番アルフレド・クアドラードが積極的に攻撃参加を始めた。

ただ、彼もキープ力はさほどない。敵ゴール前でボールコントロールを失敗し、逸らしたボールを追いかけて自陣まで戻る。ボールを拾い、左サイド深くからドリブルを始めたクアドラードは、しかしあっけないほど簡単に敵ゴール前に到達した。それは、この試合でスペインの選手が見せた、もっとも距離の長いドリブルだったかもしれない。

それまでイングランドの危機を何度も救っていた4番ケリン・シールを抜き、ゴール正面で待ち構えるDFを半歩だけ右にかわしたクアドラードが、右足を振る。シュートコースはほとんどなく、その瞬間をとらえた写真ではボールがどこにあるかわからない。おそらくDFの後ろに隠れているのだろう。そのボールがゴール右隅に飛び込んだとき、残り時間は9秒を切っていた。スペイン 1-0 イングランド。あの退屈な試合がこんなに劇的な結末を迎えるのだから、サッカーって本当に面白いですね。長く記憶に残りそうだ。

スペイン8番、アルフレド・クアドラドのゴール

スペイン8番、アルフレド・クアドラドのゴール

ゴール後の歓喜の瞬間

ゴール後の歓喜の瞬間

思いがけず、よその試合について長々と書いてしまったので、日本の公式練習のことをたくさん書く時間がなくなってしまった(正確に言うと「書く体力」がなくなってしまった。眠いのである)。とりあえず、長い移動と初戦のあいだに行う練習としては申し分のないメニューだったとだけ書いておこう。よくプランを練り、90分の持ち時間をうまく使い切った指導陣はすばらしい。明日の初戦で戦うコロンビアの練習も見たが、技術レベルはほぼ同等と言ってよかろう。体格では劣るが、スピードでは間違いなく日本が上。これまで作り上げてきた自分たちのサッカーを、堂々とやり抜いてほしい。この初戦をうまく乗り切って勝ち点を取ることができれば、日本のグループリーグ予報には「晴れマーク」が点灯する、と私は思っている。

日本チームの公式練習の様子。ビブスが黒田智成

日本チームの公式練習の様子。ビブスが黒田智成



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岡田仁志 世界選手権従軍レポート その1 もぜひご覧下さい。

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