岡田仁志 世界選手権従軍レポート その7

2010/08/21 | <<一覧に戻る

ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志


現地時間 2010年8月20日(金)11時30分

◇日本 0-0 韓国
キックオフの2時間前、宿舎の裏手にある空き地(庭?)でウォーミングアップを始めた日本の選手たちは、ふだんどおりの陽気さを取り戻していた。気持ちの切り替えの早さが彼らの取り柄だ。ちなみにこの日は、三原キャプテンの誕生日。前夜はケーキでお祝いしたらしい。どういう事情か知らないが、そのケーキに顔面から突っ込んだキャプテンは、「まだ鼻の中にクリームが残ってる気がする」と皆を笑わせていた。

ウォーミングアップ中のキャプテン三原と山口。

ウォーミングアップ中のキャプテン三原と山口。

試合前のピッチでの練習中、私はスタンドで池袋のイベントに参加した。日韓戦のパブリック・ビューイング会場と生電話。いくつか質問に答える。スカイプなるものを(声だけ)初めて経験したが、なんかトランシーバーで喋ってるみたいで、向こうの空気がまったく読めない。音もブツブツ途切れがちで、質問の内容がよくわからないこともあり、当てずっぽうで答えてしまったこともあった。ごめんなさい。

日本の先発メンバーは、トップに加藤、中盤に黒田と落合、DF田中、GK安部。右足薬指の打撲で痛み止めを飲んでいる落合だが、ここまでは守備的な時間帯での起用が多く、フラストレーションが溜まっていただろう。試合前には「今日は攻撃8割、守備2割で行きます。PVイベント会場の人たちに、『私のゴールをぜひ大きな画面で見てください』と伝えてください」と語っていた。すみません、伝え損ねました。

その言葉どおり、中盤で敵からボールを奪い、ドリブルで相手ゴールに突進する落合の背中からは、「絶対に勝つ」という気迫が感じられた。落合だけではない。加藤と黒田も次々と気持ちのこもったシュートを放つ。前半11分、加藤が3人のDFを引きつけて横パスを出し、フリーの黒田が惜しいシュートを放った場面は、日本チームが作り上げてきたサッカーを象徴するような美しいプレーだった。しかし、試合の内容では圧倒しているものの、日本のシュートは撃っても撃っても入らない。「日本のスタイルで点を取る」というテーマを意識しているせいか、きれいに決めることにこだわりすぎているようにも感じられた。どの選手も、シュートを撃つ位置がゴールから遠い。

落合(7番)の気迫あふれるシュート。

落合(7番)の気迫あふれるシュート。

残念ながら、その点は試合が終わるまで修正されることがなかった。後半、私はコーラー魚住の後ろで日本の初ゴールを待ったが、何度「ちくしょう!」と吐き捨てて天を仰いだかわからない。惜しいシュートの連続。しかしそれは、決まらなかったから「惜しい」のではなく、蹴った瞬間から「惜しいシュート」だった。私が見ていていちばん「入りそう」だと感じたのは、加藤が6mライン付近で見せた二度の「空振り」だ。本人も「当たってくれ!」とイチかバチかで強振したそうだが、あれぐらいパワフルに撃ち抜かなければ、なかなかゴールを割ることはできない。守備力の向上で、いまのブラインドサッカーは、テクニックだけでは点が取れない時代を迎えている。各国の「大砲」が次々とゴールを決める今大会は、このサッカーが「パワーの時代」に入ったことを告げているように私には思えるのだ。

黒田のシュート。こんなシーンを何度見たことか……。

黒田のシュート。こんなシーンを何度見たことか……。

最後までゴールを決めることができず、スコアレスドロー。前のめりで攻撃したため、危険なカウンターも何度か食らったが、落ち着いて対処した田中とGK安部の好守は称賛されていい。昨年の韓国戦(アジア選手権)で、自らの不用意なプレーから失点した安部にとっては、この試合が汚名返上のチャンスだった。得点こそ奪えなかったが、ここで韓国を抑えてグループ4位になったのは大きい。日本は、前回優勝国のアルゼンチンと7-8位決定戦を戦えることになった。現在の日本代表は、「2012年のロンドンパラでメダルを獲る」を最終目標に掲げるチームである。世界選手権の最終戦は、その目標に向けた強化の第一歩だ。選手たちには、そこで何らかの大きな手応えを感じてもらいたい。

◇中国 4-1 ギリシャ
ここで勝っても勝ち点7でフランスと並ぶ中国は、3点差以上をつけなければ準決勝に進めない。実力差を考えれば、そう難しいことではないと思われた。ところが前半15分にギリシャが先制したのだからビックリだ。スタンドで観戦していたフランス選手団もビックリしたことだろう。フランス語はさっぱりわからないが、たぶん「うわ、マジかよマジかよ。ギリシャすげえよオイ」とか何とか口走りながら、抱き合って狂喜乱舞していた。

しかし前半22分に中国が同点に追いつき、後半の立ち上がり早々には逆転。ふだんはあまり感情を表に出さない中国の選手たちだが、この試合は、声にも表情にも激しい闘志が感じられた。後半4分にはPKで3-1。その10分後には9番Zhou Bin Wangが豪快なシュートを叩き込んで4-1とし、フランス選手団をスタンドから引き上げさせたのだった。その後のギリシャは、「フリーキックをどっちが蹴るか」をめぐって9番と2番が激しく口論。あまりに大声で怒鳴り合っているので、主審が苦笑しながら注意していた。そんなところで闘志を見せてどうする。ギリシャ、いろんな意味で面白いチームです。

◇ブラジル 0-0 アルゼンチン
どちらも順位が確定したため、この好カードが消化試合になってしまったのは残念。無論、どちらも意地を感じさせる熱戦となったものの、ブラジルはリカルドとセヴェリーニョ・シウバを最後までベンチに温存した。凄いプレーは随所にあったが、私が「おお!」と唸ったのは、後半20分のヴェロ。ブラジルの6番マルコス・フェリペが蹴り上げたループパスを、なんとジャンプして止めたのである。距離が近かったので、そうしなくても体に当たったとは思うが、ジャンプのタイミングは完璧だった。今大会は「空中」を使うプレーも目立ち、ついにブラインドサッカーが「2次元」から「3次元」へ突入しようとしている。今後は、こんなプレーも増えていくに違いない。

◇イングランド 1-0 コロンビア
勝ったほうが準決勝進出の大一番。これまで試合中に何度かアウトして休憩していたクラークをフル出場させたあたりに、イングランドの気合いを感じた。決勝ゴールは、前半23分。GKの目の前で4人のDFに包囲されたグリビンは、そのときボールを完全に見失っていたと思う。ところが、「足探り」をした左足の爪先に、ルーズボールがコツンと当たる。遠藤のコロコロPKのようなシュートに、GKは反応できなかった。ほぼ偶然がもたらした1点だが、あの距離までゴールに肉迫すれば何かが起こる、という教訓。それにしても、「あらら?」という感じで入ったにもかかわらず、タイミングよく一斉に大歓声を上げた地元観客の集中力はすばらしい。真剣にゲームを見ていなければ、あんな反応はできないと思う。

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