岡田仁志 世界選手権従軍レポート その9
2010/08/22 | <<一覧に戻る
ブラサカJAPAN、10年目の本気。
in The 5th IBSA World Blind Football Championship 2010
文と写真/岡田仁志
現地時間 2010年8月22日(日)10時50分
◇韓国 0-1 ギリシャ(9位決定戦)
1日5試合あるため、今大会で唯一、午前中キックオフの試合。この大会は(北京パラを除いて)過去に見たどの国際大会よりも観客が多いが、さすがにスタンドはまばら。日本がここで戦うハメにならなくて本当にヨカッタ。なにしろ4年前は、韓国とのビリ決定戦(PK戦で勝利)がラストゲームだったのだ。あれは実に寂しい。目標には届かなかったけれど、日本は少なくとも、どん底からの脱出は果たしたのだ。
試合のほうは、後半17秒に7番ザカロスのゴールでギリシャが先制。後半7分で早くもギリシャのファウルが3つになったときは、韓国14番の怖さをよく知る日本選手団から「韓国にもチャンスあり」という声が上がったものの、韓国が得た第2PKは1つだけ。14番キムのトゥキックはめずらしくGK正面を突き、スクランブル出場のギリシャが最下位を免れたのであった。しかしアジアのチームがビリから脱出する日は、そう遠くないはずだ。5試合で2ゴールを挙げた韓国も、確実に力をつけている。
◇スペイン 1-0 中国
決勝進出を決めたマルティン(スペイン)の第2PK
スペインがうまくやった試合。7番マルティンの出場時間が短かったのは、故障でも抱えていたせいだろうか、あるいは守備的に戦う方針だったのだろうか。本来DFの8番クアドラードが時折トップに入ったりしたのを見ると、たぶん後者だろうと思う。ボールは圧倒的に中国が支配するものの、スペインの守りは堅かった。体格の差があると、中国のドリブルをもってしてもゴールにはなかなか迫れない。中国選手のなかでもっともスペインのGKを脅かしたのが、大砲系ストライカーの9番Wangだったことを見ても、必要なのは「パワー」なのだと感じる。
ほとんど決定機を作れなかったスペインだが、延長戦突入の可能性が濃厚と思われた後半22分に第2PKをゲット。ここでスペインベンチは、その十数分前からアウトしていたマルティンを投入する。その右足がゴール右隅に決勝点を叩き込んだのだった。ひとしきり大喜びしたのち、スペインベンチはマルティンを引っ込めて再び守備的な布陣に。8回裏の代打ホームランみたいなゴールだった。
◇ブラジル 5-1 イングランド
この試合2得点のジェファーソン(ブラジル)
2枚で守るブラジルがイングランドの大砲グリビンを止められるか。そして、おもに守備で奮闘する主将クラークはリカルドを抑えられるのか。そのあたりに注目してこの大一番を観戦した。ファーストシュートは、グリビン。ブラジルの守備力をもってしても、リーチの長いこのストライカーを2人で止めるのは難しそうだ。一方のクラークは、細身のリカルドに執拗に体を寄せ、しばしばボールを奪う。序盤を見るかぎり、地元観衆の大声援を背にしたイングランドにも決勝進出のチャンスはありそうに感じられた。
しかし先制点はブラジル。それまでリカルドにパスを出すことが多かったジェファーソンが、前半9分、右サイドからドリブルで中央に侵入し、得意の右足アウトサイドでボールをゴールに放り込む。リカルドに集中していたイングランド守備陣は、このセカンドストライカーへの詰めが甘かった。3分後の2点目は、リカルドに代わって出場したジョアン・シウバ。ワンパターンのS字ドリブルが見事にハマり、右足を豪快に振り抜いたゴールだった。
もはや勝負あり――と思われたが、イングランドはしぶとい。2-0とされた2分後に、グリビンが力強い突破でブラジル守備陣を振り切り、左足でシュート。ゴールネットが揺れた瞬間の大歓声は、さらなるイングランドの追撃を強く信じさせるものだった。3つのゴールが乱れ飛んだこの5分間は、この大会でもっとも扇情的な時間帯だったといえるだろう。その場にいた誰もが、これが「障害者スポーツ」であることを忘れ、純粋に「サッカーの興奮」を味わっていたに違いない。
1点差に迫ったイングランドは、そのままハーフタイムを迎えたかったことだろう。だが、相手は試合運びのうまいブラジルだ。前半の残り27秒で得たコーナーキック。フェンス沿いにドリブルで下がったリカルドが、ヒールでジェファーソンに戻す。逆サイドに移動したリカルドに、ジェファーソンからクロス。これはDFに阻まれたが、その位置でのクリアミスは命取りだった。一瞬でボールをかっさらったリカルドが楽々と決めて3-1。大観衆の溜息がピッチを覆う。
後半は膠着状態が長かったが、19分にジェファーソン、23分にリカルドが追加点を挙げ、結局は大差がついた。しかし、開催国と優勝候補のファイナルを懸けた一騎打ちを見られただけでも、地元ファンは大満足だったのではないだろうか。イングランドの選手たちも、すがすがしい表情でスタンドに拍手を送っていた。
ところでこの試合、後半にめずらしいハプニングがあった。フェンス際でクラークとセヴェリーニョ・シウバが激しく競り合ったときのことだ。レフェリーが笛を吹き、観客が大笑いしたので何かと思ったら、ボールがお椀のように凹んでいた。サッカーの試合中にボールが壊れるのは初めて見ました。2人のパワーが凄まじかったのか、ブラジルボールの出来が悪かったのかは、わからない。たぶん、その両方だろうと思われる。
本当にお疲れ様でした。
準決勝のことを長々と書いていたら、取材に出かける時間が迫ってきてしまった。なのでコメントは短くなるが、後半17分まで前回チャンピオンを堂々とゼロに抑えた日本の守備は、この4年間の強化の賜物であるとひとまず言っておきたい。日本の選手たちと指導者は、間違いなく世界に通用するディフェンスを作り上げた。しかし、よく守りながらも先制点を許してしまうパターンが続いたのは、やはりまずい。一瞬でも隙を見せれば、強豪国のストライカーはそれをきっちりモノにする。また、この試合は日本らしい攻撃の形をほとんど作れず、前線でトップの選手が孤立する場面が目立った。さすがにアルゼンチンの圧力は強かったとはいえ、1点も取れずに迎えたラストゲームだけに、もう少しリスクを冒して攻める勇気が見たかったというのも正直なところだ。5試合で得点0。ゴールを挙げられなかったのは、10チームの中で日本だけ。この屈辱をバネにして、さらなる勇気を持って出直すしかない。
フランスの4人目、8番ベセラのPK。
実力伯仲の好勝負。やや荒っぽいプレーが多く、主審の井口さんは忙しそうだった。PK戦では、フランスの3人目が微妙なキック。W杯で問題となったランパードのシュートと同様、クロスバーに当たって地面を叩いたのだが、判定も同様にノーゴール。決まったと思ってキッカーに駆け寄ってしまったフランス選手たちが気の毒だった。私にはわからなかったが、「ラインの内側だったような気がする」との声も。ただしその判定は第2審判のお役目なので、仮に誤審だとしても井口さんの責任じゃありません。どっちにしろ、次のフランス選手が決めたので、誰も文句は言わない。好チームのフランスには準決勝に進出してほしかったが、あのフランスとゼロゼロのコロンビアと日本がゼロゼロで引き分けたのは、なんだか嬉しい。思えば、初戦が日本のベストゲームだったのかもしれない。


























